ハンドメイド活動をしていると、委託販売先や取引先に商品を預けたり、売上を後日まとめて振り込んでもらったりすることがあります。
普段は問題なく取引できていても、まれに取引先が倒産・破産してしまうことがあります。
めったにあることではありません。
でも、ハンドメイド作家として長く活動していると、完全に他人事とも言い切れません。
私自身、これまでに2回ほど、取引先の倒産を経験しました。
1回目は、数か月分の売上が入ってこないまま取引先が倒産しました。
今振り返ると、このケースは事前に防げた部分があったと思います。
2回目は、直近まで売上の滞納がなく、最後の1か月分だけ売上が入ってこないというパターンでした。
このときは、正直、事前に気づくのはかなり難しかったと思います。
どちらの取引先も、たくさん販売してくれていた店舗でした。
作家側からすると、とてもありがたい存在だっただけに、精神的にも金銭的にもかなり大きな出来事でした。
この記事では、ハンドメイド作家の立場から、取引先が破産したときに何をすればいいのか、売上は戻ってくるのか、そして被害を防ぐために普段から何を意識しておくべきかをまとめます。
※この記事は私自身の経験をもとにした一般的な内容です。実際の対応は状況によって変わるため、具体的な判断は弁護士など専門家に相談してください。
まず結論:未払いの売上は、満額戻る可能性はかなり低い
取引先が破産した場合、未払いの売上、つまり売掛金がそのまま全額戻ってくる可能性は高くありません。
私の経験上も、戻ってきたとしても数%程度。
場合によっては、まったく戻ってこないこともあります。
破産手続は、残っている財産を整理し、債権者に公平に分配するための手続です。破産手続開始後は、個別に取引先へ支払いを求めて回収するのではなく、破産手続の中で配当を受ける形になります。
つまり、作家側から見ると、
「売れていた分の売上だから、当然払ってもらえるはず」
と思っていても、破産手続に入ってしまうと、通常の請求とはまったく違う扱いになります。
取引先が破産したときにまずやること
取引先が破産した、または破産しそうだと分かったら、まず感情的に動かず、事実確認をします。
最初にやることは、次の4つです。
- 未払いの売上金額を確認する
- 商品を預けている場合は、現在の在庫数を確認する
- 取引先や代理人弁護士から届いた書類を保管する
- 早めに弁護士や商工会などに相談する
特に大切なのは、未払い金額と在庫の確認です。
何月分の売上が未払いなのか。
いくら振り込まれていないのか。
商品を何点預けていて、どれが売れて、どれが残っているのか。
ここが曖昧だと、後から債権調査票や破産債権届出書を書くときに困ります。
弁護士に相談したほうがいい
こういう案件は、基本的には弁護士に相談したほうがよいです。
自分だけで判断しようとすると、
「この書類は返送したほうがいいのか」
「これは債権として届け出ていいのか」
「在庫商品は引き上げられるのか」
「相手に連絡してもいいのか」
など、判断に迷うことがたくさん出てきます。
相談先としては、次のような場所があります。
- 地元の弁護士会の法律相談
- 法テラス
- 商工会・商工会議所
- 顧問税理士や顧問弁護士がいる場合はその先生
法テラスでは、法的トラブルの相談窓口や近くの相談先を探す案内もされています。
また、商工会や商工会議所に入っている場合は、そこから専門家相談につなげてもらえることもあります。
破産した取引先の代理人弁護士から書類が届くことがある
取引先が破産する場合、通常は代理人弁護士から書類が届くことがあります。
よくあるのは、次のような書類です。
- 受任通知
- 債権調査票
- 破産手続開始通知書
- 破産債権届出書
「受任通知」は、弁護士がその会社や事業者の代理人になったことを知らせる書類です。
「債権調査票」は、あなたに未払い金がいくらあるのかを確認するための書類です。
その後、破産手続が進むと、裁判所や破産管財人から「破産手続開始通知書」や「破産債権届出書」が届くことがあります。
裁判所の案内でも、破産手続開始通知書には事件番号、破産者の氏名・住所、破産管財人の氏名・連絡先、債権者集会の日程などが記載されるとされています。
書類が届かない場合は、自分が債権者として把握されていない可能性もある
通常は、債権者として把握されていれば書類が郵送されてきます。
ただし、こちらが債権者としてリストに入っていない場合、書類が届かないこともあります。
その場合は、取引先の代理人弁護士や破産管財人に連絡し、自分が債権者であることを伝える必要があります。
裁判所のQ&Aでも、官報で破産を知ったものの通知書が届かない場合、管財事件では破産管財人に連絡して通知書等一式を受け取るよう案内されています。管財人の連絡先が分からない場合は、事件番号と破産者名を裁判所に伝えれば、管財人事務所の電話番号を教えてもらえるとされています。
債権調査票・破産債権届出書を書くために必要な資料
取引先が破産したときに、あわてないために必要な資料は次の通りです。
必要な資料
- 取引先との契約書
- 委託販売契約書
- 納品書
- 請求書
- 売上報告書
- 入金履歴
- 未入金の一覧
- 商品を預けている場合の在庫表
- メールやLINEなどのやり取り
- 支払日が遅れた経緯
- 入金遅延についての相手からの説明
特に大切なのは、売掛残がいくらあるのかです。
売掛残とは、まだ支払われていない売上のことです。
たとえば、
- 3月売上分:30,000円未入金
- 4月売上分:45,000円未入金
- 5月売上分:20,000円未入金
このように、月ごとに整理しておくと分かりやすいです。
「だいたいこのくらい」ではなく、できるだけ資料に基づいて金額を出しておく必要があります。
破産債権届出書は、配当を受けるための書類
破産手続の中で配当を受けるには、破産債権届出書を提出する必要があります。
東京地方裁判所の説明では、破産債権届出書は、破産した人に対して代金を支払ってもらっていない人などが、破産管財手続の配当に参加するための書類とされています。必要事項を記載し、証拠書類のコピーなどを添付したうえで、期限までに提出する必要があります。期限内に届け出ないと、配当を受けられないことがあります。
大阪地方裁判所の案内でも、破産債権届出書を受け取った場合は、同封書類をよく読み、必要事項を記載し、必要書類を添付して期限までに返送するよう説明されています。
つまり、書類が届いたら、
「よく分からないから後で見よう」
ではなく、すぐに中身を確認したほうがいいです。
債権者集会は必ず行く必要がある?
破産手続では、債権者集会が開かれることがあります。
債権者集会では、破産管財人から財産状況や今後の見込みについて説明があります。
ただし、債権者集会への出席は任意です。大阪地方裁判所の案内でも、債権者集会に出席しなかったからといって、配当を受けられなくなる不利益はないとされています。
ただ、金額が大きい場合や、状況を直接確認したい場合は、出席を検討してもよいと思います。
SNSで同じ被害にあっている人を探すのも有効
実務的には、X、旧Twitterなどで同じ取引先名を検索するのも有効です。
同じように売上が未払いになっている作家さんが見つかることがあります。
また、オープンチャットなどで被害者同士の情報共有が行われることもあります。
もちろん、SNSの情報は正確とは限りません。
感情的な投稿や未確認情報もあります。
それでも、
「書類が届いている人がいるのか」
「代理人弁護士は誰なのか」
「債権調査票が届いているのか」
「他の作家さんはどう対応しているのか」
を知る手がかりになることがあります。
ただし、SNSで取引先を強く非難したり、未確認情報を拡散したりするのは避けたほうがいいです。
あくまで情報収集として使うのがおすすめです。
被害を防ぐためにできること
取引先の破産を完全に防ぐことはできません。
特に、直前まで普通に支払いがあり、売上の滞納もなかった場合は、作家側で気づくのはかなり難しいです。
私の2回目の経験もそうでした。
最後の1か月分だけ売上が入ってこないパターンで、事前に何かできたかというと、正直かなり難しかったと思います。
ただし、1回目のように、数か月分の売上がたまってしまっていたケースは、今振り返るともっと早く動けたと思います。
入金サイクルが崩れたら注意する
委託販売や取引先との取引では、毎月決まった日に入金されるはずです。
たとえば、
- 月末締め翌月末払い
- 15日締め翌月15日払い
- 毎月10日振込
など、決まったサイクルがあるはずです。
このサイクルが崩れてきたら注意が必要です。
1回だけ遅れた程度なら、事務処理のミスということもあります。
しかし、
- 何度も入金が遅れる
- こちらから連絡しないと振り込まれない
- 理由が毎回違う
- 「他の作家に間違って入金した」と言われる
- 「入金日を忘れていた」と言われる
- 売上報告も遅れる
- 連絡の返信が遅くなる
このようなことが続く場合は、かなり危ないサインです。
売上が2か月分たまったら、一度立ち止まる
私の経験上、売上が2か月分たまってしまったら、早めに動いたほうがいいです。
具体的には、
- すぐに未入金分を確認する
- 支払い予定日を文面で確認する
- 追加納品を一時停止する
- 商品の引き上げを検討する
- 今後の取引条件を見直す
という対応です。
売れているお店ほど、作家側としては取引を止めにくいです。
「たくさん売ってくれているから」
「このお店がなくなると売上が減るから」
「もう少し待てば払ってくれるかもしれない」
そう思ってしまいます。
でも、売上が大きい店舗ほど、未払いが発生したときのダメージも大きくなります。
売れていることと、きちんと支払われることは別です。
追加納品を止める判断も大切
入金が遅れているのに、さらに商品を納品してしまうと、被害額が増えてしまいます。
特に委託販売の場合、
- 未払いの売上
- 店舗に残っている在庫
- これから売れる予定だった商品
が絡んできます。
入金が不安定になってきたら、まず追加納品を止めることを考えたほうがいいです。
「入金が確認できたら、次の納品をします」
という形にするだけでも、自分を守ることにつながります。
契約書や取引条件を残しておく
小さな店舗や作家同士の取引では、口約束で始まることもあります。
ただ、破産や未払いが起きたとき、口約束だけではかなり弱いです。
最低限、次の内容は書面やメールで残しておくのがおすすめです。
- 締め日
- 支払日
- 振込方法
- 販売手数料
- 返品・引き上げのルール
- 商品の所有権
- 売上報告の方法
- 未払いが発生した場合の対応
- 何か月滞納したら取引停止にするか
きちんとした契約書でなくても、メールやLINEで確認しておくだけでも、後から経緯を説明しやすくなります。
普段から売掛金を一覧で管理しておく
取引先が増えてくると、
「どこの店舗からいくら入金される予定か」
「どの月の売上がまだ入っていないか」
が分かりにくくなります。
そのため、毎月の売掛金は一覧で管理しておくのがおすすめです。
たとえば、スプレッドシートで次のように管理します。
| 取引先 | 売上月 | 売上金額 | 入金予定日 | 入金日 | 状況 |
|---|---|---|---|---|---|
| A店 | 4月 | 35,000円 | 5月末 | 5月30日 | 入金済 |
| B店 | 4月 | 42,000円 | 5月末 | 未入金 | 要確認 |
| C店 | 4月 | 18,000円 | 5月末 | 6月5日 | 遅延 |
このようにしておくと、入金遅れに早く気づけます。
取引先が破産したときのやることリスト
最後に、実際に取引先が破産したときのやることをまとめます。
1. 未払い金額を確認する
まず、売掛残を確認します。
何月分の売上が未払いなのか、いくら入金されていないのかを整理します。
2. 預けている商品の在庫を確認する
委託販売の場合は、店舗に残っている商品があるか確認します。
ただし、破産手続に入っている場合、勝手に引き上げられるかどうかは状況によります。必ず弁護士や代理人に確認したほうがいいです。
3. 取引先の代理人弁護士を確認する
受任通知が届いている場合は、代理人弁護士の名前、事務所名、連絡先を確認します。
書類が届いていない場合でも、他の作家さんや官報情報などから代理人が分かることがあります。
4. 受任通知・債権調査票を取り寄せる
自分が債権者として把握されていない可能性がある場合は、代理人弁護士に連絡し、債権者であることを伝えます。
そのうえで、必要な書類を送ってもらえるか確認します。
5. 破産手続開始通知書・破産債権届出書を確認する
破産手続が開始されると、破産手続開始通知書や破産債権届出書が届くことがあります。
提出期限があるため、届いたらすぐに確認します。
6. 弁護士に相談する
金額が大きい場合、在庫商品が残っている場合、契約内容が複雑な場合は、早めに弁護士に相談したほうが安心です。
7. SNSなどで同じ被害者がいないか確認する
同じ取引先と取引していた作家さんがいる場合、情報共有できることがあります。
ただし、未確認情報の拡散や感情的な投稿には注意します。
まとめ:売れている取引先ほど、売掛金をためすぎない
取引先の破産は、ハンドメイド作家にとってかなりつらい出来事です。
特に、よく売ってくれていた店舗ほど、信頼もありますし、取引を止める判断が難しくなります。
私自身、倒産を経験した2つの取引先は、どちらもたくさん販売してくれていた、とても良い店舗でした。
だからこそ、入金が遅れても、
「もう少し待とう」
「たくさん売ってくれているし」
「関係を悪くしたくない」
と思ってしまいます。
でも、売掛金がたまってしまうと、取引先が破産したときのダメージは大きくなります。
特に、
- 入金が何度も遅れる
- 理由が毎回違う
- 売上が2か月分以上たまる
- こちらから催促しないと振り込まれない
という状態になったら、早めに回収し、追加納品を止め、場合によっては商品を引き上げる判断も必要です。
取引先の破産を完全に防ぐことはできません。
でも、売掛金をためすぎないこと。
入金サイクルの乱れに早く気づくこと。
契約書や売上資料を残しておくこと。
この3つだけでも、被害を小さくすることはできます。
ハンドメイド活動は、作品を作ることだけでなく、自分の売上と商品を守ることも大切です。
大切な作品と売上を守るためにも、取引先との関係が良好なうちから、入金管理と契約内容の確認はしておくことをおすすめします。